半導体のニュースを読んでいると、会社名がずらりと並びます。

TSMC、サムスン、インテル、エヌビディア、東京エレクトロン、信越化学工業

どれも半導体の会社です。ところが、同じ記事の中に並んでいるのに、互いにどういう関係なのかが書かれていないことがほとんどでした。競合なのか、取引先なのか、そもそも同じものを作っているのか。

私は文系の出身で、半導体メーカーの管理部門で働いています。入社してしばらく、この地図が頭に入らないまま社内の会話を聞いていました。分かってしまえば単純だったので、当時の自分に向けて整理し直します。

結論:同じ「半導体の会社」でも、立っている場所が違う

いちばんの混乱の原因は、半導体の会社という言葉が、まったく違う仕事をひとまとめにしていることです。

設計する会社、作る会社、作るための機械を売る会社、材料を売る会社。これらが全部「半導体関連企業」として同じ記事に登場します。飲食業界の記事に、レストランと厨房機器メーカーと食材卸が同列に出てくるようなものです。

だから最初にやるべきは、会社を覚えることではなく、場所の種類を覚えることでした。

まず三つの型に分ける

作る工程に注目すると、会社は大きく三つに分かれます。

  • ファウンドリ:設計は他社から受け取り、製造に専念する
  • ファブレス:設計だけを行い、製造は外に出す
  • IDM:設計から製造まで自社で抱える

この三つの違いはファウンドリ・ファブレス・IDMの違いで詳しく書きました。ここでは、実際の会社をこの枠に当てはめていきます。

TSMC:受託に徹することを選んだ会社

台湾の会社で、ファウンドリの代表格です。自社ブランドの製品を売るのではなく、他社の設計を預かって作ることに専念しています。

この立ち位置には理由があります。製造に徹すると宣言しているからこそ、設計会社は安心して図面を預けられます。もし相手が同じ製品を自社ブランドで売っていたら、設計の中身を渡すのはためらわれるはずです。

「作らない」と決めた会社が増えるほど、作る役の存在感が増していく構造になっています。日本でも熊本に生産拠点をつくったことで、名前を聞く機会が一気に増えました。

サムスン電子:メモリと受託の両方に立つ

韓国の会社です。スマートフォンや家電の印象が強いかもしれませんが、半導体の世界ではメモリの分野で大きな存在として語られます。

さらに、他社から製造を受託する事業も持っています。つまり自社製品を作りながら、受託でも戦っている形です。

先ほどのTSMCの話と重ねると、この立ち位置の難しさが見えてきます。自社でも同じ土俵の製品を扱っている相手に、設計を預けるかどうか。そこが議論になる構造そのものが、業界の力学を表しています。

インテル:自分で設計して自分で作る型の代表

米国の会社で、パソコン向けの頭脳部分で長く知られてきました。設計から製造まで自社で行うIDMの代表として説明されることが多い会社です。

自前で工場を持つ強みは、性能と製造を一体で作り込めることにあります。一方で、工場への投資を自社だけで背負うという重さもあります。近年は他社製品の受託にも乗り出しており、型そのものが動いている最中と言えます。

作らない会社が主役になる、という逆転

ここが、文系の私がいちばん面白いと感じた部分です。

エヌビディアやクアルコムは、自社で大きな工場を持たずに設計へ集中する型です。アップルのように、機器メーカーでありながら自社向けのチップを設計し、製造は外に任せる例もあります。

ものづくりの常識で考えると、工場を持たない会社は下請けに近い印象を受けます。ところが実際には逆で、設計と用途を握っている側が主導権を持つ場面が増えました。

この逆転を理解すると、業界のニュースの見え方が変わります。誰が工場を持っているかではなく、誰が「何を作るか」を決めているのか。そこが力の所在です。

では、日本の会社はどこにいるのか

ここが本題です。日本勢の名前は、完成したチップそのものより、その手前と周辺に多く並びます。

作るための機械をつくる会社

東京エレクトロンは製造工程で使う装置の分野で知られています。検査の工程ではアドバンテスト、洗浄などの工程ではSCREENホールディングス、切って削って磨く工程ではディスコといった名前が出てきます。

回路を焼きつける露光の工程では、オランダのASMLが特別な位置を占めていますが、その周辺の工程には日本の会社が数多く関わっています。

材料をつくる会社

土台となる円い板を供給するのが信越化学工業とSUMCOです。板そのものの話はシリコンウェハーとは?にまとめました。

回路を描くときに使う薬品ではJSR、組み立ての工程で使う材料ではレゾナックといった会社が挙がります。派手さはありませんが、ここが止まると工場も止まります。

チップそのものをつくる会社

記憶する役割の製品ではキオクシア、機器を制御する役割の製品ではルネサスエレクトロニクス、電気を扱う分野ではロームなどの名前が出てきます。カメラの目にあたる部品では、ソニーのグループが世界的に知られています。

製品の種類による分け方は半導体の種類は3つだけ覚えればOKにまとめました。

新しく立ち上がった動き

先端のロジック半導体を国内で作ることを目指すラピダスという会社が設立され、たびたび報道されています。国内の生産体制をどう組み直すかという文脈で語られることが多い話題です。

装置と材料が「見えにくいのに効く」理由

ニュースの見出しに出るのはチップの会社ですが、実際に業界を動かしているのは装置と材料の側だと感じる場面が何度もありました。

理由は単純で、どんなに優れた設計をしても、作る手段がなければ形にならないからです。新しい世代の製品を作るには、それに対応した装置と材料が先に用意されていなければなりません。

だから「どこかの国が最先端の工場を建てる」というニュースが出たとき、そこに機械と材料を納める会社にも同時に光が当たります。地図を持っていると、この連想が働くようになります。

製造の流れそのものは半導体ができるまで|前工程・後工程に書きました。どの工程に誰がいるのかを重ねて読むと、位置関係がつかみやすくなります。

経理の目から見ると、型の違いは費用の形の違い

管理部門にいるせいか、私はこの三つの型を費用の形として見る癖がつきました。

自社で工場を持つ型は、作っても作らなくても出ていく費用を大きく抱えます。建物と装置への投資が先に立つからです。稼働が落ちたときの痛みが大きい構造になります。

設計に集中する型は、その重さを持ちません。代わりに、外注先の都合に生産量が左右されます。混み合っている時期に順番を取れるかどうかが、そのまま売上の上限になります。

どちらが優れているという話ではなく、抱えるリスクの種類が違うだけです。決算の記事を読むときにこの視点を持っていると、数字の意味が立体的になります。

ニュースを読むときに私が使っている三つの問い

会社名が出てきたら、頭の中でこう問いかけます。

  1. この会社は、設計側か、製造側か、それとも工程を支える側か
  2. この話は、どの工程の出来事か
  3. 誰の売上が増えて、誰の予算が減るのか

三つ目が意外と効きます。ある会社が工場を建てるという話は、装置と材料の会社にとっては受注の話です。逆に、投資を先送りするという話が出れば、その連鎖も逆向きに流れます。

用語を覚えるより、この問いを持つほうが早く景色がつながりました。私が業界の話についていけるようになったのも、単語帳ではなく地図を手に入れてからです。

四つ目の型:仕上げの工程だけを請け負う会社

三つの型で説明されることが多いのですが、実務ではもうひとつの区分をよく耳にします。回路を作り込んだ後の、切り分けて組み立てて検査する工程だけを専門に受託する会社です。

台湾や東南アジアに大きな事業者が集まっており、日本国内にもこの領域を担う企業があります。目立ちにくいのに、供給が詰まると全体が止まる位置にいるのが特徴です。

近年は、この仕上げの工程そのものが性能を左右する技術領域として注目され始めました。かつては「作り終えたあとの作業」と見られていた部分が、競争の場に変わりつつあるという話です。

会社の名前が変わりすぎて追えない、という壁

日本勢を調べるときに私がぶつかったのが、これです。古い資料と新しい資料で名前が一致しません。

記憶する役割の製品を手がける会社は、大手電機メーカーの事業が切り出されて生まれた経緯を持ちます。機器を制御する製品の会社も、複数の電機メーカーの半導体部門が段階的に集まってできた成り立ちです。材料の分野でも、化学メーカー同士の統合を経て社名が変わった例があります。

つまり今ある社名の背後には、たいてい統合と分離の歴史があるということです。ここを知らないと、同じ事業の話をしているのに別の会社の話に見えてしまいます。

逆に言えば、成り立ちを一度たどっておくと、なぜその会社がその分野に強いのかが腑に落ちます。私にとっては、社名の暗記より効率のいい覚え方でした。

私が実際に覚えていった順番

全部を一度に把握しようとして失敗した経験から、順番を決め直しました。

  1. 自分の勤め先がどの位置にいるかを確定させる。ここが原点になります
  2. その前後の取引相手を並べる。仕入先と納入先をたどると、自然に周辺が埋まります
  3. そこから離れた場所へ広げる。ニュースで名前を見たときに、原点からの距離で置き場所を決めます

この順で進めると、覚えた知識が仕事の会話と結びつきます。逆に、有名な会社から覚えようとすると、いつまでも他人事の情報のままでした。

文系で入った人ほど、この順番が効くと思っています。技術の理解で先行するのは難しくても、誰と誰がどう取引しているかという構造は、管理部門のほうが見えやすいからです。

まとめ

  • 「半導体の会社」という呼び方は、役割の違う複数の業種をひとまとめにしている
  • 製造への関わり方で三つの型に分かれる。受託に専念する型、設計に専念する型、両方を抱える型
  • 台湾の大手は受託専業として、韓国の大手は自社製品と受託の併走として、米国の老舗は自前主義の代表として語られることが多い
  • 工場を持たない側が主導権を握る場面が増えた。決めているのは用途を持つ側
  • 日本勢はチップ本体より、装置と材料の分野に多く名前が並ぶ
  • 見出しに出にくい工程の担い手ほど、業界全体の進み方を左右している
  • 型の違いは、そのまま費用の背負い方の違いとして決算に表れる
  • 会社名を覚えるより、役割・工程・お金の流れを問う習慣のほうが役に立つ

地図さえ持っていれば、知らない会社名が出てきても置き場所を決められます。技術の中身が分からなくても、位置関係なら把握できる。入社したころの私を支えたのは、この一点でした。